借りられなければ創業者は失望、支援側は無駄働き。士業・コンサルタントとしては、断る基準を持っておきたいものです。
こんにちは。株式会社ネクストフェイズのヒガシカワです。
「創業融資を借りられる可能性のある人、そうでない人、どう目利きしますか?」
創業融資支援を行う士業・コンサルタントから、よく出る質問のひとつです。
私はもう今は創業者に直接アドバイスしていませんが、ネクストフェイズが運営する一般社団法人融資コンサルタント協会の会員士業・コンサルタントには、「創業者からの相談があったら、まず借りられる人かそうでないかを見極めが大切」と伝えています。
その見極めの基準、さらに「お断り」のときにセットで伝えたい改善策を今日はお話ししましょう。
※なおネクストフェイズは、事業者への個別アドバイスを行っていません。ご相談のある事業者は、ネクストフェイズが運営する一般社団法人融資コンサルタント協会の会員を検索して気軽に連絡を取ってください。融資の専門研修を受けた融資コンサルタントが、全国に1,000名以上います
お断りする創業者①自己資金ゼロ
創業融資の相談で一定程度に多いのが、「自己資金ゼロ」。
2024年から創業融資に関する自己資金要件はなくなりましたが、実際には自己資金ゼロの場合、ほぼ100%断られます。
私の20年以上の融資コンサルタント人生の中でも、自己資金ゼロで借りることができた事例は1件しかなく、たいへんなレアケースでした。(本件の背景は、また別の機会にでもお話ししましょう)
金融機関がほぼ100%断るとわかっているので、自己資金ゼロの創業者が相談に来たら「せめて2~3割の自己資金を貯めてから」とお伝えして支援をお断りするのが、双方にとってよいと思います。
お断りする創業者②創業するビジネスの経験ゼロ
飲食業での創業希望者で、創業融資を断られる割合が高いのが、「飲食業経験がゼロ」。
「創業者の3割は1年以内に廃業、5割は3年以内に廃業」と創業に関して巷間言われる言葉を地でいくような業種が飲食業。飲食業経験者でも廃業する確率が高いのに、経験がなければなおさら成功するとは考えにくいものです。
金融機関も、創業するビジネスの経験ゼロの創業者には、ほとんど創業融資を行いません。
ただし経験がなくても、それを補完できる合理的な理由があれば成功確率は高まります。経験ゼロだからといって、その時点で面談を門前払いする必要はありません。
とはいえ面談時、「自分は未経験だが、経験者を雇う」と言い張る創業希望者は多いもの。そこで「その人との関係が悪くなって辞められたら?」と尋ね、納得できる回答が得られなければ支援をお断りしましょう。
まずは創業希望者の話を詳しくヒアリングし、補完できるアイデアを持っているかどうかを見極めるのが大切です。
お断りする創業者③集客・売上確保のアイデアに具体性が乏しい
金融機関が融資審査でもっとも重視するのは、「融資した資金を返済できる可能性があるか」です。返済可能性の低い創業者に、創業融資を行うことはありません。
また、その返済可能性を見る上で重要なのが、「どのように事業計画の売上を確保するか」です。
集客・販促・売上確保の具体的アイデアがない、または現実的でなければ、「この売上を確保するのは無理だろう」と金融機関は考え、融資を断ります。
近ごろとくに日本政策公庫は、創業融資の審査時に「売上の根拠」を詳しく聞くようになりました。金融機関が納得できる根拠を伝えられなければ、その融資案件は否決です。
そのためこのような創業者には、「集客・売上確保を行うための具体的な対策を、あと少なくとも10点程度考えてからの挑戦」をおすすめしましょう。
お断りする創業者④消費者ローン/カードローンで100万円以上の借入残高
消費者ローン/カードローンの借入残高が50万円程度なら、創業融資を借りられた事例に接したことがあります(もちろん審査ハードルは上がりますが…)。しかし100万円以上借りている場合、ほとんど否決です。
消費者ローン/カードローンで100万円以上借入残高がある創業希望者の相談には、「少なくとも借入残高が50万円を下回ってから」とアドバイスするのがよいと考えます。
お断りする創業者⑤創業計画書の作成を丸投げしてくる
「創業計画書なんか書いたことがない、どう書けばいいのかわからないので、先生の方で適当に作って」と丸投げしてくる創業者も、支援をお断りするのが賢明かと考えます。
自分の大事な創業であるにも関わらず、それを他人に丸投げするような姿勢では、経営が成功するとは思えません。また、丸投げして作成してもらった創業計画書の内容を、この創業者が金融機関に説得力高く説明できることはないでしょう。金融機関の担当者から質問されても、満足に回答できないものと思われます。
そんな創業計画書は、金融機関から見れば「実現可能性ゼロの創業計画書」。融資も否決です。
もちろん「創業に至る経緯、意欲、今後の展望など、事業に関する多方面からの詳細なヒアリング」をさせてもらえない創業者には、士業・コンサルタントとしても支援する気持ちになりにくいのは言うまでもありません。
「専門家が関われば」通りやすいと言われる創業融資でも
上記の条件をクリアした創業者なら、専門家が創業計画書を手伝うことで通りやすいのが創業融資です。実績が必要ないため、「創業計画書の出来映え」が審査の大きなポイントになるからです。
とはいえ上記のような「自己資金」「経験」などに乏しい創業融資希望者は多く、借りられない可能性が通常の融資より高い傾向にあります。
通常の融資案件の場合、断られた件を詳しく聞いて「その決定は無理もない、絶対に不可能」と判断できるのは、私の経験だと3~4割程度。残りの6~7割は、手を尽くせば融資につなげられるケースです。
しかし創業融資の場合、借りられない割合は7割程度にのぼるではないかと思います。以前公庫の担当者に聞いた話だと、公庫の創業融資のうち実際に借りることができている創業者は全体の約3割とのこと。あながち私の体感も、そう離れてはいないのでしょう。
「借りられない」創業融資案件を断るときは「改善策」も忘れずに
借りられる可能性の低い創業者に時間をかけて接しても、融資が下りなければ無駄働きに終わる=成功報酬を得られません。「この案件は融資が下りない」と判断したら、「①融資可能性なし」「②借りられない理由」「③改善ポイント」の3点をお伝えしてお断りましょう。
- 「あなたには、創業融資を借りられる可能性はほとんどありません」
- 「その理由は○○だからです」
- 「今後借りられるようにするために、△△をするのがよいでしょう」
「あなたは無理です」だけで突き放してしまうと、夢を持って相談に来た創業者がどれほど失望するか。そのあまり「あのコンサルタントは話を聞いてくれない/冷たい/偉そう」などと断じられるかもしれません。断るときこそ親身な対応、前向きになれる言葉をかけましょう。
私も独立当初は顧問先もなく問い合わせ等が少なく、創業者の融資相談をすべて引き受けていました。が、結果的に成功につながったのは3割程度、つまり7割は無駄働き。そんな経験が続いた後は、創業希望者の相談を聞いて「借りるのが無理」だと判断したら、改善策とともに、はっきりと支援をお断りするようにしたものです。
創業融資の支援で士業・コンサルタントが気にするのは、創業融資を「成功に導くノウハウ」。しかし、より注目したいのは創業融資案件を「獲得」するスキルではないでしょうか。
創業融資を希望する創業者で実際に借りることができているのは、全体の3割程度。相談者が10人いても、報酬につながるのは3人です。
10人の相談を得る力があればよいのですが、そうでなければ「安定的」「継続的」に売上を確保することができません。どれだけ創業融資を「成功に導くノウハウ」があっても、そのスキルを活かす場がないのです。
創業融資支援は、自分の将来を信じて前向きに取り組む創業者と仕事できる、やりがいに満ちた業務。それだけに、長く継続して関わっていきたい事業だと考える士業・コンサルタントは多いでしょう。
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