- 2024-9-26
- 金融機関との関係づくり
- 金融機関とのつきあい方
2行取引がベストだと私は考えます。しかし1行取引のままでいる中小企業には、それなりの背景があるでしょう。支援する士業・コンサルタントは、やみくもに2行取引をすすめるのではなく、経営者の状況・心情も汲んで提案方法に工夫したいものです。
こんにちは。株式会社ネクストフェイズのヒガシカワです。
2024年7月11日に金融庁から以下の報告書が公表されました。
●「我が国における事業者の持続的な成長を促す融資実務とその影響に関する調査研究」
この資料は事業者が取引する金融機関の数、不動産担保の設定の有無に応じた融資の実態に加え、そのような融資慣行が事業者の業績に与える影響について、定量的・定性的な調査を行ったものです。
この資料を読めば、中小企業にとって最適な取引金融機関の「数」が見えてきます。はたして事業者は、いくつの金融機関と取引をするのが最適なのでしょうか? そしてそれは、どんなケースを想定した理由からでしょうか?
※なおネクストフェイズは、事業者への個別アドバイスを行っていません。ご相談のある事業者は、ネクストフェイズが運営する一般社団法人融資コンサルタント協会の会員を検索して気軽に連絡を取ってください。融資の専門研修を受けた融資コンサルタントが、全国に1,000名以上います
事業者が金融機関に求めるもの
この資料によると、「事業者が金融機関に求めるサービス」TOP3は以下のとおりです。
- 継続的な取引・不況時の支援
- 事業内容の理解
- 借入金利の低さ
今回のコロナ禍で「いざというときの資金調達の対応」が求められていたことを考えると、もっとも求められるサービスが「継続的な取引・不況時の支援」であるのはよく理解できます。
取引金融機関の「数別」で見た①倒産割合、②業績推移、③適時の支援
この調査では、以下の検証を行っています。
メイン行が不在または明確ではない状態で多行取引を行っている場合、業績悪化局面において複雑な利害関係の調整が難航し、倒産に至った以下の事例が存在する。
1・2行取引と多行取引を比較し、倒産割合との関係性についての分析と「多行取引を行っていない事業者と多行取引を行っている事業者とでは、業績悪化局面において業績にどのような違いが出るのかの検証
観点①における分析テーマ
この調査内容のうち、士業・コンサルタントの業務の参考になる部分をピックアップして紹介します。
①倒産割合
●基準年(低迷期)時点取引行数区分別での倒産割合を確認した。取引行数が1行、2行の事業者は、 6 行以上と取引を行う事業者と比較して、倒産割合は半分以下であることが確認できる。
(16ページ「3.多行取引と事業者の倒産に関する分析」)
②業績
●「1 行、2行取引」の方が「 3 行以上取引」に比べ、融資総額の推移に関わらず業績が改善されていることが示された。
事業者が1・2行取引を行う方が、多行取引を行う場合より、業績悪化時において業績が改善する可能性がある。
(18ページ「4.多行取引と事業者の業績に関する分析」)
③適時の支援
●取引行数が少ない、ないしは関係が複雑化していない方が業況悪化時における金融機関による支援時の制約が少なく、遅延することなく早期に適切な支援が実施できている可能性があると推察される。
(27ページ「本調査の考察」)
中小企業にとって最適な取引金融機関数は? 1行・2行取引まとめ
この調査内容によると、中小企業にとって最適な取引金融機関数は「1 行、2行取引」。では、「1行取引」と「2行取引」のどちらがよいのでしょうか?
私は「2行取引」が最適だと考えます。
「1行取引」だと取引金融機関に依存しなくてはならなくなるため、どうしても金融機関の立場が強くなってしまいます。そうなると金融機関側の求める条件を飲まねばならなくなり、不利な条件での取引になりかねません。
一方「2行取引」だと融資の依頼も両方の金融機関に打診することができ、より有利な条件の金融機関を選ぶことができます。
また「1行取引」では、取引金融機関に融資を断られると資金調達の手段が絶たれてしまいます。
金融機関が融資を断るのは、企業側の理由(業績悪化・財務内容悪化等)ばかりでなく、金融機関側の理由(担当者の能力不足・金融機関の熱意不足・金融機関独自の事情等)もあるため、一つの金融機関に断られたといって必ずしも他の金融機関からも断られるとは限りません。
複数の金融機関と取引をしている企業なら、一つの金融機関に断られても、別の金融機関から融資を受けられて難を逃れた事例はたくさんあります。
1行取引 | 2行取引 |
---|---|
●金融機関の立場が強くなり、融資依頼時は求められる条件を飲まねばならないことも | ●融資依頼を両方に打診でき、より有利な条件の金融機関を選べる |
●融資を断られると資金調達の手段が絶たれる | ●1行に断られても、もう一方に依頼できる |
つまり複数の金融機関との取引は鉄則。しかし今回の調査結果を踏まえると、多ければ多いほどよいわけではありません。中小企業にとって最適な取引金融機関数は「2行」だといえるのではないでしょうか。
中小企業、とくに小規模企業が1行取引のままでいる背景にも理解を
1行取引のままでいる経営者は少なくありません。とくに小規模企業は、1行取引で十分だと考えていることも多いでしょう。
- 2行取引は考えたことがない。だって今のメインバンクから必要額を借りられているし…
- 1行取引のほうが、資金繰り管理も事務作業も少なくて済む。私は本業に専念したいんです
- 2行取引がリスクヘッジになるのはわかるけれど、2つめの銀行を探すのって手間でしょう? そんな時間ありませんよ
また、これまでのメインバンクとの関係を気にする声もよく聞かれます。
- ○○銀行さんは過去、困ったときに助けてくれたんです。他行との取引は不義理のように感じて始めにくいんだよね…
- ○○銀行さんとは長いつきあい。新しい金融機関と取引を始めて、今の良好な関係が壊れたら困るなあ…
(さらに「1行取引だと、つながりが強いんです。いざというときでも頼りにできます」と胸を張る経営者もたまにお会いしますが、それはさすがに「幻想」だと言えるかもしれません…。金融機関は融資に対して、そこまで浪花節な姿勢で臨むことはありません)
中小企業、とくに小規模の企業を支援する士業・コンサルタントとしては、1行取引のままでいる経営者の状況・心情を理解し、また信頼関係を構築したうえで、もう1行の金融機関開拓への提案を無理なく行っていきましょう。
中小企業の資金繰り安定のために、複数の金融機関との取引は鉄則。しかし「1行取引」の中小企業は少なくありません。いざというときのために、普段から「懇意にしている」「複数の」金融機関との取引は重要です。
1行取引だと、その金融機関に融資を断られたとき、あわてて新規の金融機関に依頼をしてもほとんど断られるでしょう。
事業内容も財務内容も業績も、社長の考え方や経営姿勢もわからない、メインバンクから融資を断られた、これまで取引のない中小企業への融資は、金融機関にとってリスクが高すぎます。融資を行う義理も義務もありません。
「1行取引」しかしていない中小企業には、もう一つ「取引金融機関」を増やすことを強くおすすめします。しかし多くの経営者はその重要性も、また新たに融資してくれそうな金融機関を開拓する道筋や方法、スケジュール感も見えていません。だからこそ、融資や銀行との関係づくりに強い士業・コンサルタントがお手伝いするのです。
そんな「新たに融資してくれそうな金融機関」を開拓するお手伝いができる士業・コンサルタントになるためのヒントが手に入ります。
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