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金融機関は顧客数を減らすべき

コロナ後の新しい金融機関のあり方を、取引先のために、また自分たちのためにも、勇気を持って考え進めてほしいのです。

こんにちは。株式会社ネクストフェイズのヒガシカワです。

今回の記事はいつもの士業・コンサルタント向けとは違って、金融機関の経営者に向けて書きました。

また、完全に私見であることを、あらかじめご了承ください。

今こそ金融機関は顧客数を減らすべきだと私は考えます。その理由を、現在の状況とともに詳しくお話しましょう。
 

金融検査マニュアル廃止に伴う金融機関の変化

2019年12月の金融検査マニュアル廃止に伴い、金融機関は金融庁から以下の2点を積極的に行うよう指導されてきました。

1/事業性評価融資
2/本業支援

 
とはいえ2020年に新型コロナウイルスの影響を受けた事業者への融資を行わなければならなくなったため、「事業性評価融資」や「本業支援」については金融庁もあまり言及することはありませんでした。

一方、新型コロナウイルスの影響は今も続いていますが、経済産業省も金融庁も金融仲介機能の正常化を目指し、金融機関に対して「事業性評価融資」と「本業支援」を積極的に行うよう再び求め始めています。

しかし…。
 

事業性評価融資とは、本業支援とは

事業性評価融資とは、「財務内容や担保・保証人だけ見て融資をするのではなく、その企業の事業内容や将来性を鑑みて融資すること」です。金融マニュアル以前は「過去のデータを重視」して審査していたのですが、今後は「将来性を目利き」したうえでの審査が求められています。

また本業支援とは、「取引先企業の付加価値を高めるお手伝いをすること」です。取引先企業の売上アップ・利益アップのお手伝いをすることや、売上アップ・利益アップを阻んでいる経営課題を解決するサポートが求められています。

こんな説明、金融機関の方々には釈迦に説法でしたね。でも残念ながら、多くの金融機関は「事業性評価融資」「本業支援」への取組みが満足にできていません。

その原因は、「顧客数が多すぎるから」だと私は考えます。以下に背景をお話ししましょう。
 

金融機関が事業性評価融資に取り組みにくい背景

事業性評価融資を行うためには、取引先企業の事業内容を把握することが最重要です。取引先企業の事業内容を把握するためには、担当者の「情報収集能力」と「情報分析能力」、さらに「時間」が必要になります。

「情報収集能力」と「情報分析能力」が足りない

時間をかけて取引先に相対し、関係を築きながら詳細な情報を集めなければ、その事業内容を把握することができません。また首尾よく情報を集めることができたとしても、それらを正しく分析して稟議書に表現できなければ、事業性融資は覚束ないからです。

でも今の担当者には、事業性評価融資を積極的に行うために必要な「情報収集能力」も「情報分析能力」もありません。金融機関において、それらを磨くような体系的な教育をしていないからです。

また、いざ貸し倒れたときに社内からの(とくに経営上層部からの)風当たりがきつく、評価や将来の出世にも関わるので、「失敗は許されない、リスクは取れない」と現場の担当者が萎縮している話もよく聞きます。

時間が足りない

そして、何より不足しているのが「時間」です。

現場の担当者はあまりにも多くの顧客過重なノルマのせいで、取引先に相対する十分な時間を確保できません。結果、表層的な情報しか得ることができず、事業性評価融資は「絵に描いた餅」になっているのが現状です。

(新しい)担当者の能力が足りない

既存の担当者の能力が劣化したわけではありません。新たに渉外担当者として現場に出るようになった担当者の能力が、既存の担当者に比べて大幅に足りないと感じます。その原因は勤務経験の短さではなく、「コロナ融資」

ご存じのとおり新型コロナウイルスの影響を受けて資金繰りが悪化した事業者に、できる限り速やかに融資を行わなければならない状況が続きました。金融機関は従来のような経営内容・財務内容の吟味を行う時間がなく、「コロナの影響で売上低下」の要件さえ満たしていれば融資実行を優先せざるを得なかったのです。

そのためここ2年間で初めて現場に出た渉外担当者は、「情報収集能力」も「情報分析能力」も磨くことができませんでした。彼らに「事業性評価融資」や「本業支援」に関する知見がないのは当然。しかし新たに学ぶ場も時間も十分なく、過酷な状況に置かれたままです。
 

顧客を減らせば収益が上がる=高金利で貸し出せるから

顧客数を減らして一社一社に取り組むことができれば、目利き力を高められます。目利き力が上がれば、ミドルリスク・ミドルリターン先にも、高い金利で融資をすることが可能になります。高金利で貸し出せれば、金融機関本来の強みである融資業務を続けながら、収益力を上げていけるのです。

一人ひとりの力量が上がる

また、一社一社に対峙する時間が増えれば、自然と担当者の「情報収集能力」も「情報分析能力」も磨かれます。これから入行する新人担当者も、数は少なくても1件1件の濃密な経験から、豊かな知見を積み上げてくれるはず。そんな優秀な担当者なら、取引先もすすんで関係を継続してくれるでしょう。

風土の変化と人材の定着

収益力が上がれば、貸し倒れに陥った担当者へのバッシングが和らぐはずです。リスクを取ってチャレンジする風土が根付けば、人材の定着も望めます。優秀な人材が長く勤めてくれるのですから、これほど取引先にも銀行経営にとっても心強いことはないでしょう。収益力アップ=生産性が上がるとは、そういうことです。
 

金融機関を「オワコン」にしない具体的対策

事業性評価融資にせよ、本業支援にせよ、金融機関が本気で取り組むためには、以下の5点が必要です。

●「担当者に対する体系的な教育
●「支店や担当者に対する評価基準の大幅な変更」
●「過重なノルマの廃止」
●「審査体制のドラスティックな変更」
●「顧客数削減による担当者の時間の確保」

 
真剣に行うなら少なくとも2~3年はかかるでしょうし、その間の大幅な赤字は避けられないでしょう。

しかし構造転換を行う勇気を持たなければ、現在の金融機関というビジネスモデルは「オワコン」とならざるを得ません。
 

金融機関の経営判断を鈍らせるのは含み益?

残念なことに…と言っていいのかわかりませんが、そんな経営であっても今の金融機関には含み益があります。(最近は、円安の影響で含み損が増えている金融機関もありますが)

そのせいもあって、今の金融機関経営者は自分たちが大きな赤字を出してまで構造転換をする勇気を持てていません。

それが「自分の任期中に赤字は出せない」という自己保身によるものか、「自分の任期さえ持ちこたえられたら後は知らない」という逃げ得狙いなのか、古い考えから脱却できていない硬直思考によるものか、構造転換をするだけのアイデアがないのか、いやいや足りないのは勇気だけなのか、理由は個々によってさまざまであり、また複雑に絡みあっているのでしょう。

いずれにしろ多くの金融機関の中小企業金融に対する取組み体制を見ていると、本気で改善しようとしているようには感じられないのです。「茹でガエル状態」に陥っているのが、今の金融機関の経営者ではないでしょうか。
 

今こそ火中の栗を拾うとき、顧客と自分たちのために

私はかつて金融機関に勤めていました。残念ながら破綻して職場を失いましたが、それでも私は融資の仕事に大きなやり甲斐を感じていたので、独立後も中小企業融資の支援を行ってきました。

金融機関に籍は置いていませんが、独立後の20年間ずっと、金融機関融資の現場に携わってきたのです。だからこそ今の金融機関経営者の無策に、やるせない気持ちになります。

今までの金融機関のビジネスモデルの根本的な考えは、「顧客数の増加」でした。しかしもうすでに、金融機関のビジネスモデルは破綻しかけています。今までの延長線上に金融機関の生き残る道はないと思います。今の延長線上でない発想が、これからの金融機関に求められているのではないでしょうか。

今こそ、「顧客を減らす」という発想もあるということを、ぜひ金融機関経営者のみなさんに知ってもらいたい。

将来性ある取引先に力強く伴走するために、また自分たちの未来を作り出すために、何年か赤字を出す覚悟が今の金融機関の経営者に必要なのでは…と思う今日この頃です。

最後に再度申し上げますが、以上はあくまでもヒガシカワの私見です。少なからぬ数の金融機関経営者は、いろいろな制約条件の中で懸命に経営しておられると思います。そういった方々にはとても失礼なことを申し上げたことをお詫びいたします。

私は、かつて自分が身を置いていた業界が「オワコン」だなんて揶揄されるのがつらい。

金融業界に在籍したことに私はこれからも誇りを持っていたいし、現在、金融機関に勤める多くの人々にも、やはり同じように、自分の業務と業界に胸を張っていてほしいのです。

株式会社ネクストフェイズ  東川 仁

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